第7話 爆炎の暴君
負けた・・・・・・悔しい。「奴ら」が・・・・憎い。
「俺が・・・負けた」
負けた。そう、敗北したのだ。「奴ら」に。
以前の「彼」は、この世の全てを憎んでいた。親も、兄弟も、この世界も、何もかもを、だ。だから「あの方」の誘いの声に耳を傾けた。
そして授かったのは絶対的な―――能力(チカラ)。
「彼」がまず最初に行ったのは、自分の生まれ育った星を破壊した事だった。楽しかった。嬉しかった。目の前で消えていく憎い「同僚」、「団長」、「全て」。そしてその後も自分は負けることなく欲しいものを奪い、壊し、殺し、破壊した。
この星でも同じ事だった。奪い、壊し、殺し、犯し、破壊すればいい。そう考えていた。しかし、彼の思い描いていた事と現実は違った。
「勇者・・・・」
『勇者』と称する敵によって、自分は2度も目的を達成できなかった。星の生命そのものである「コスモエナジー」の奪取はおろか、『勇者』の手による敗北。「あの方」は、失敗することを決して許さない。戻ったところで想像するもおぞましい制裁を受けて死ぬのがオチだ。
だから、逃げた。それからしばらくすると「彼」の心は再び昔と同じ状態になった。
憎い、悔しい、壊したい、奪いたい、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・・・・。
「うああぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
深い暗闇の中で、「彼」は吼えた。その叫びは怨嗟の炎で包まれていた。
2016年8月
「う〜ん・・・・平和ね〜」
翔達がイギリスから帰国して早1月。あれからギルナーグの襲撃は全くと言っていいほど無く、人々は平和を享受していた。今、1人自分が通っている大学の講堂の窓際でボンヤリしているこの女性―斎賀 纏(さいが まつり)―もその一人である。
「こう平和だと、あんた達の事を忘れちゃいそうね。」
苦笑して胸のネックレスを掴んで話し掛ける。そこには狼の顔をあしらったヘッドがあった。
『忘れられても困りますけどね。』
と、不意にそのヘッドから人のものではない機械的な声が聞こえてくる。その声の主は苦笑しているようだった。
「けどさ〜。こう何も無いと、ね・・・。」
『こんな時こそ連中は狙ってきます。油断は禁物ですよ。レディ。』
声の主が嗜める。物腰柔らかな声音だった。
「大丈夫よ、何かあったらファングの事呼ぶから。」
ネックレス向かって微笑みながら、ひょんな事から知り合った「相棒」にそう言ってヘッドをネックレスから切り離すと、それは一瞬で纏の左腕に光となって巻きつき、姿を変え無骨な手甲の形になった。細腕の彼女にはいまいち似合う代物ではなかったが、彼女は気にとめていなかった。
「・・・・こうしてると、私も戦うんだなって、つくづく思うわ。」
手甲―ファングブレス―を眺め、呟く。そしてそれはファングブレスを通じて自宅のラボにいる鋼のパートナーにも届いていた。
『レディ・・・・・』
「こんな戦い、早く終わればいいのにね・・・・。」
『いや、終わらせなければならないのです。私たちが・・・・』
「そう・・・よね。私たちが。・・・・・・さ〜て。夕食の買い物でもして帰りますかぁ。」
軽く背伸びをし、そう言ってファングブレスを再び携帯用のネックレスヘッドに戻すと、纏は窓から茜色の光が差し込む講堂を出て行った。
『レザードよ・・・・まだ新たなるブレイクポイントは見つからんのか・・・』
この世の何処ともつかぬ異空間にある巨大な城。その最奥にある誰も座っていない、いや、いないのではない。そこに何かが「在る」玉座から、この城の主たる存在が声を出した。
「はっ。いくつかは見つけ出したのですが、全て巧妙な偽物でした・・・。」
レザード、と呼ばれた女性が跪いた姿勢のまま返答する。青く長い髪に切れ長の目、必要悪な部分しか覆っていない露出度の高い服を来た美女だった。そしてレザードの後を、隣にいた漆黒の鎧を纏った男が答える。
「やはり現状ではあそこの街だけがブレイクポイントの可能性があります。」
身に着けている兜の所為か、ややくぐもった声でその騎士が言った。ブレイクポイント、それは星系の命たるエネルギー「コスモエナジー」を噴出させる事のできる地点の事である。彼らの目的はそのコスモエナジーを数多くの星系から回収する事。
実はその回収したコスモエナジーをどうするかまでは幹部であるレザードや騎士すら知らされていないのだが、それは彼らにとってさしたる問題ではなかった。盟主の命令は何があろうと絶対。それが彼等にとってのルールだ。
『そうか・・・・。』
一言呟いてグランドライゼスは黙り込む。しばらく考え込んでから配下の名前を呼んだ。
『オルティアよ。』
「はっ。」
オルティア、と呼ばれた騎士が返事をする。
『あの街へ向かえ。何としてでもコスモエナジーを我の元へ持ってくるのだ。』
「かしこまりました。・・・そう言えば、『奴』を捜索していた部下から連絡が入りましてございます。」
ふと思い出したように一言を付け加えると、それを聞いてグランドライゼスの声が曇った。
『我は捨て置け、と言ったはずだが・・・まぁよい。して、何だ?』
大して興味の無い、といった感じで聞くグランドライゼス。
「奴を発見したとの事です。そして、動いた、と・・・・。」
『そうか。行き先はわかっておるのか?』
そこでオルティアは顔を上げた。兜の隙間から相貌が光っているかのように見えた。
「おそらくは、あの街です。あの忌々しい勇者共と決着をつけるつもりなのでしょう。」
『わかった。奴の制裁についてはお前に一任する。勇者共と纏めて葬り去っても構わん』
冷酷に吐かれたその台詞を聞いたオルティアは立ち上がり、一礼するとその場を去っていった。
『レザード、お前は引き続き捜索を開始しろ。一刻も早く本物のブレイクポイントを見つけ出すのだ。』
「ははっ!」
レザードも消え、一人残ったグランドライゼスは誰にともなく呟いた
『エイジスめ・・・所詮雑魚はいかな力を与えても雑魚と言う事か・・・』
「ただいま〜・・・・・あら?」
買い物を済ませ、大学から戻ってきた纏が自宅に入ると、いつもなら返って来るべき祖父の返事が無かった。
「また研究所のほうかな?全く、鍵もかけないで・・・・・。」
そう言い残すと彼女は自宅の裏山にある研究所へと脚を運んだのだった。
「あ、纏さんこんにちは〜!」
纏が研究所へ入ると、そこには見慣れた少年と少女の姿があった。神崎 翔(かんざき つばさ)と羽賀 麗佳(はが れいか)である。
「あ、翔君に麗佳ちゃん、いらっしゃい。お爺ちゃんはいる?」
そう彼女が尋ねると、麗佳が答えた。
「ううん見てないの。私達もさっき来たばかりで・・・」
「家に来たら、すぐこっちに来るように、って。急に呼ばれたんだよ。」
翔達も何故自分達が呼ばれたか判っていない様子だった。肝心の纏の祖父、斎賀 弦十郎(さいが げんじゅうろう)は何処にもいない。恐らく、この研究所の最下層にいるのだろう。弦十郎の孫として幾度となく入ったこの研究所だが、最下層には今まで入れてもらえる事ができなかった。一体祖父はそこで何をしているのだろう?と、纏が思いを巡らせていると、不意に壁にある内線電話機が鳴った。
「お。お爺ちゃんね、はいは〜い」
相手がいないのに返事をする、これは電話を受けるときの常である。
「もしもし〜。うん私。・・・・・うん、うん。わかったわ、伝えておく。」
そう言って電話を切り、翔と麗佳に向かって言った。
「やっぱりお爺ちゃん、最下層にいたわ。で、今からそこまで降りて来いですって。」
「一体何なのかしらね。急に呼び出すなんて・・・」
それぞれが疑問に思いながらも、階層用のエレベータに乗り込むのだった。
最下層の地下5階に下りた翔達を待っていたのは、真っ暗な空間だった。今まで光に目が慣れていただけに、何かがあるのは把握できるがそれが何なのかは全くわからない。
「真っ暗・・・・」
「うわぁ・・・何も見えないよ。」
「お爺ちゃんいるんでしょ?明かり点けてよ!」
そう纏が言った瞬間、彼らの視界がバッと開けた。突然室内にある照明の全てが一斉に灯ったのだ。
「ぅわ眩しっ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
周囲を煌々とライトが照らし、暗闇に慣れた目を瞬かせる事しばし。目を開けた彼らの前には、驚くものが広がっていた。広大な空間に各種の情報端末、コンソールパネルに大型モニター、これはどう見ても・・・・
「諸君。GEG(ジーグ)司令室へようこそ!」
そこにはこちらを向いて立っている弦十郎とシュバルツ、そして見慣れない数人の男女がいた。
「は?え?何、司令室って?それにその人達は・・・?」
状況を飲み込めていない翔が困惑する。それは麗佳と纏も一緒だった。
「彼らは昔のワシの教え子じゃよ。ところで翔君、この間ワシの言っていた事を覚えておるかの?」
困惑しながらも、翔は先日のイギリスでの事を思い出す。
「この間って・・・イギリスで言ってた?」
「うむ。先日ワシらが以前から侵略者の存在を知っていた事は言ったのぅ。そしてその為に、今はシャドーファングが融合しているメタニマルを建造した事も。」
シャドーファング、と聞いて纏がそっと胸のネックレスに触れた。
「そこでじゃ。やはりああいったものを運用するには、それ相応の設備を持った場所が必要になる。そこでこの施設の登場と言うわけじゃ。しかし、今やそんな悠長な事はもう言っておれん。そこでワシとシュバルツ君の祖父であるハーゲンとで、方向を変えることにした。ここを対侵略者用の防衛拠点とするんじゃ。」
「それって、ここをゼクサー達の基地にするって事?」
麗佳が尋ねる。すると弦十郎はかぶりを振った。
「ゼクサー達の、ではない。我々の、じゃ。」
そこで言葉を切った弦十郎は一歩前に進み出ると、声高に宣言した。
「今ここに、宇宙警備連邦地球支部、グローブ・エナジー・ガーディアンズ、略称GEG(ジーグ)の設立を宣言する!!以後、指令はこちらのシュバルツ・リヒトが行う。皆、よろしく頼むぞ!」
翔達の多大なる困惑を他所に、ここに対侵略者組織GEGが設立されたのであった。
一方その頃、神楽ヶ丘市の上空より、突然何かが現れた。それは人の姿をしており、長身痩躯で蒼い肌をしていた。そう、それは今や邪星帝国ギルナーグから逃亡した「熾天剣のエイジス」だった。彼は前回の作戦が失敗した後にグランドライゼスの制裁を恐れる余り、組織から行方を眩ませていたのだ。案の定その後追っ手が差し向けられたのだが、彼は巧妙に身を隠し現在に至る。彼は一目でわかるほどに憔悴していたが、その目だけは爛々と輝いていた。
「もう・・・・終わらせてやる・・・・!」
そして懐から、召喚銭の入った袋を取り出した。全部で12枚あった彼の僕を生み出すその道具も、この数ヶ月で半分にまで減ってしまっていた。そしてそこから手持ちの召喚銭を全て取り出す。しかし不意に沈痛な面持ちをしてその中の一枚だけは残して懐にしまっていた。
「・・・・・・・・・来い!操機どもぉっ!!」
そう叫び、持っていた召喚銭全てを空へと放り投げた。すると暗雲が空を覆い、その中から操機(アード)と呼ばれる人型の兵器が降りてくる。全部で6機。その中でも一際大きな、禍々しい気を纏う紅白に彩られた機体にエイジスは乗り込んだ。無人機動兵器である操機の中で、唯一の有人機でありエイジスの専用機。鎧操機(ガイアード)「ザルドニクス」である。前回受けたダメージは微塵も残っておらず、その姿は美しく、かつ恐ろしいまでの殺気を放っていた。
『いいかお前ら。もうコスモエナジーなんて関係無ぇ!この星を叩き壊す!まずはこの街にいる勇者どもをあぶり出せ!!』
ザルドニクスから下された命を聞き、5機の巨人達は地上へと舞い降りた。今までとは違う、殺戮の為の殺戮を行う為に・・・。
「グローブ・・・エナジー・・ガーディアンズ・・・・・」
弦十郎の宣言を聞いた翔達は、まだよく理解できていなかった。何せ何の予告も無しに突然のこの発言である。まだほけーっとしている3人に、シュバルツが説明する。
「この間皆さんがイギリスに来た時の理由と言うのは、本当はこのGEG設立の相談だったんですよ。そして私はその事を祖父から事前に聞いていましてね。日本にも留学と言う名目で来てはいますが、実際はこの為に呼ばれたんですよ。」
と、苦笑して言う。
「へ〜。そうだったんだ・・・・」
と、纏がほけーっとシュバルツを見る。
「・・・・・どうも、実感が無いようじゃのぅ・・・。」
弦十郎がシュバルツの方を向いて呟く。どうやら予想していた光景でなかったのが不満のようだ。
「あ・・・・当たり前でしょ!いきなり言われたって何がなにやら・・・・。」
麗佳が困惑しながらも怒鳴る。
「それにお爺ちゃん。勝手にこんな・・・・それこそ軍事施設みたいなの作って、バレたら大事じゃない!」
ようやく冷静さを取り戻したのか、纏が疑問を口にする。この国には日本国自衛軍と言う軍隊があり、それが国の防衛・警察機構の全てを掌握しているのが現状である。例えば、銃器を軍関係者以外の者が所持している事が発覚すれば、その所持者は即刻逮捕、あるいは極刑に処される。その為この国には暴力団と言うものがない。圧倒的な強制力がそれらの存在を良しとしないのだ。無論、チンピラが銃持つだけでそれである。仮にも一般人がこんな施設を建造すればどうなるかは言わずもがな。しかし、弦十郎はカッカと笑って言った。
「それなら安心せい。実は学生時代にワシが良くしてやった後輩が今自衛軍の上層部にいてな。ちょっと昔の話を振っただけで目の色変えてワシらの事は黙認すると言いおったわ。」
「そ・・・それって一種の脅迫じゃ・・・・」
麗佳がゲンナリした顔で言う。するとその時
ビーッ・ビーッ・ビーッ!!
突然司令室の中をけたたましいサイレンの音が包む。
「こ、今度は何が起きたの!?」
纏が声を上げる。するとコンソールパネルの前に座っていた一人のオペレーターらしき女性が叫んだ。
「神楽ヶ丘市内にギルナーグのものと思われるロボットが出現!その数6機、今正面のモニターに出します!」
女性が素早くキーボードを叩くと、正面の大型モニターにザルドニクスを始めとする操機の集団が街を破壊していた。
「あ、あれはこの間の!」
翔が驚愕の声を上げる。横にいた麗佳は少し顔が青ざめていた。そして翔のヴァリアブルコマンダーに通信が入る。彼の相棒、ゼクサーからだった。
『ツバサ!早く行かなければ街が破壊されてしまうぞ!』
「うん、わかってるよゼクサー!」
シュバルツを見ると、彼は軽く頷いた。
「自衛軍に連絡、至急救助班を出動させるように要請。翔君達は至急ゼクサーらと共に現場へ急行してください!」
「GEG、出動じゃ!!」
弦十郎の号令一下、各自がそれぞれの持ち場につく。
「翔君達はそこのエレベータに乗ってください。もう彼らの発進準備はできています。」
「う、うん。わかった!」
翔達は慌しくエレベータに乗る。扉が閉まり上昇すると、音もなくエレベーターは格納庫のある第二層に到着する。降りた先には3人のパートナーたる存在が待っていた。
『お嬢、今日はあの野郎にリベンジかけるぞ!』
突然目の前の青いスポーツカーから麗佳に向かって声が発せられる。誰も乗っていないはずのそれは明らかに明確な意思を持って話し掛けてきた。遠い星の彼方からこの地球にやってきたエネルギー生命体、宇宙警備連邦の戦士たちである。
『今度は前回のような無様な結果にしないであります!』
と、今度はその横にある黄色いドリルタンクから声が上がる。その隣の大型トレーラーは無言だった。
『ツバサ、早くバンガードファルコンに乗り込んでくれ。急がないと手遅れになる。』
大型戦闘機の下部に固定された赤い車が言う。頷くと翔は戦闘機の機首にあるコクピットへと乗り込んだ。
「ファング、調子はどう?」
纏が鋼で造られた巨大な狼に歩み寄る。するとその狼から、先程纏が大学で会話していた時と同じ声が発せられた。
『大丈夫です。お気遣い感謝します。レディ。』
狼が謝辞を述べる。纏が頷くと、シャドーファングは「伏せ」の体勢をとり纏を自分の背に乗せた。
『私がバンガードファルコンで先行する。ガンナーズとシャドーファングはそれに続いてくれ。』
赤い車が指示を出すと、ガンナーズと呼ばれた3台のビークルと狼が「了解」と返事を返した。
『敵は恐らく決着をつけるつもりです。気をつけて下さい。ゼクサー。』
シャドーファングが赤い車―ゼクサーに言うと、返事代わりにバンガードファルコンのエンジンが甲高い唸りを上げた。そして研究所のある裏山の中腹部が開き、そこからバンガードファルコンが勢いよく飛び出し、次いでガンナーズとシャドーファングもそれぞれのカタパルトから出撃したのであった。
――――神楽ヶ丘市内―――
地上に舞い降りた6機の破壊神は、ゼクサー達が発進した時には既に街を蹂躙していた。今までのようなコスモエナジーを探しながらのついでに壊しているのではない。まさしく破壊の為の破壊だった。
『オラオラ!さっさと出てこねぇとこの星潰しちまうぞクソ勇者どもぉっ!!』
ザルドニクスの前腕が開き、掌からエネルギー波が発せられ跡形も無く建物が破壊される。その中にいた人間の事など構いもせずに。
他の5機の操機もそれぞれが一方的な破壊を繰り返す。壊し、殺し、狂ったように暴れ回る鋼の魔人達に人々は抗う術をもたなかった。
と、そこに自衛軍の戦闘機が数機飛来する。編隊を組み次々に搭載されたミサイルを発射するも、ザルドニクス達にそれが効く筈も無かった。
『ウゼぇんだよこのカトンボ共がぁっ!』
咆哮一閃、エネルギー波の直撃を受けあっけなく戦闘機部隊は壊滅した。
『・・・・ハァッ、ハァッ・・・まだか。奴等はまだかっ!』
と、声を上げながらふと天を仰ぐ。すると上空から光る『何か』がザルドニクス目掛けて落ちてきた。それを確認するやみるみるエイジスの瞳が興奮で赤く充血する。自然と口から獰猛な笑みがこぼれる。来たのだ。彼の待ち望んでいた「敵」が。
『来ぃぃぃぃぃたかぁぁぁっ!!』
腰から下げていた剣を抜き放ち、急降下してくるそれを待ち構える。それは光輝く剣を大上段に構えると、一気にザルドニクス目掛けて振り下ろした。
『甘えっ!』
あっさりと剣で受け流し、さらに柄で弾き飛ばす。弾き飛ばされたそれは着地のバランスを崩し地面に叩きつけられた。
『うぐぁっ!!』
『上空からの奇襲とはまぁ考えたが、テメェじゃ力不足だよ。赤いの。』
剣を肩に担ぎザルドニクスからエイジスの声が発せられる。赤いの、と呼ばれたそれは、先程の赤い車―ゼクサー―が変形した姿だった。
奇をてらって上空から奇襲をかけてはみたものの、それは見事に返されてしまった。
『ゼクサー、大丈夫かっ!?』
遅れて到着した青いスポーツカーが変形すると、倒れたゼクサーを支え上げた。そしてそれに続くようにしてドリルタンク、大型トレーラー、狼も変形した。
「酷い・・・私たちの街がこんなにメチャクチャに・・・」
シャドーファングから降りた纏が街の惨憺たる有様を見て愕然とする。スポーツカーから降りていた麗佳はザルドニクスを睨みつけた。
『やっと役者が揃ったか。ホレ、さっさと合体でも何でもしやがれ。雑魚をぶっ殺しても面白くも何ともねぇんだよ。』
嘲りを多分に含めた声でエイジスが挑発する。すると麗佳が携帯ゲーム大の通信装置、ヴァリアブルコマンダーを出して構えた。
「やってやろうじゃない!マッハガンナー、グランガンナー、ビッグガンナー、準備はいい?」
ガンナーズの三機に声をかけると、呼ばれた三機が「おう!」と威勢のいい声を張り上げた。
「挑発に乗るのは好きじゃないけど・・・シャドーファング。こっちもやるわよ。」
ファングブレスの後部にある取っ手を引き変形させ、ポケットから獅子と鷲、それぞれのデザインが入ったカードを取り出すとファングブレスに差し込んだ。
「コマンドコール、ビートイーグル・スラッシュレオン!」
その声に答えるようにファングブレスから光が伸び、光の中から鋼の鷲と獅子がカードの中から実体を現した。
『ツバサ、我々も合体するぞ!』
ゼクサーが上空で待機していたバンガードファルコンに乗っている翔に声を送る。
「うん!あいつ・・・絶対に許さない!」
各々がコマンダーを構えると、一斉に声を上げた。
『ブレイブ・エンター・・・・』
『烈空合体!!』
「重爆合体!!」
「獣咬合体!!」
合体命令を聞いた5機がそれぞれの主をその身に乗せて合体する!
『烈空合体・ゼクシィィィドッ!!』
『重爆合体・トラァイッ・ガンナァァァッ!!』
『獣咬合体・ファングレイヤーッ!!』
合体を終えた三機が地上に降り立った時、エイジスもその周囲に操機を集めていた。両者が無言で構え、そのまましばし膠着する。
『待ちくたびれたぜ。それじゃおっぱじめるとするかあっ!トーファス、アクマリナー!』
エイジスの号令一下、まず2機が襲いかかる。それぞれ黄色と水色で塗装が施されており、やや細身な姿は頭部のツノの有無以外まるっきり同じ形状をしていた。そしてザルドニクスを除いた残り3機はその場に留まり、ザルドニクスを中心として三角形の位置になるように陣形を組む。
『来るぞ!皆気をつけ――』
ガシィッ!!!
ゼクシードが他の2機に注意を促そうとした瞬間、こちらに突進してきた2機がゼクシードを無視してトライガンナーとファングレイヤーに組みかかる。
『うわっ!?な、何だこいつら!』
『く、離れなさい!!』
2機は引き剥がそうともがくが、ガッチリ組み付かれていて一向に離れる気配が無い。細い体型からは思いも寄らない膂力である。
『トライガンナー、ファングレイヤー!』
両腕からツインキャリバーを引き抜きゼクシードが向かうが、その行く手をザルドニクスの閃光が阻んだ。
『まぁそう焦るなよ赤いの。こっちゃ邪魔モン入れたくねぇだけだ。テメェとタイマン張るのにな。』
今しがたエネルギー波を放った右手を下ろし、エイジスが続ける。
『そっちの二匹にゃちょっとギャラリーになってもらう。ま、せいぜい楽しんでいけよ。ハハハハハ!』
そう言って笑いながらパチン、と指を鳴らすと、何とトライガンナーとファングレイヤーに組み付いていた二体の操機が光に包まれ、次の瞬間には巨大な十字架の形となって二体を磔にしていた。
<ちょっと、何なのよこれ!トライガンナー、何とかしなさいよ!>
『何とかったってよ・・・・クソ、力が入んねぇ!!』
怒鳴る麗佳に対してトライガンナーが怒鳴り返しながらもがくも、一向に拘束は解けようとしなかった。更に・・・
<ファング!分離して何とかならない!?>
『く・・・残念ですが、この状態では・・・それに、私の力が徐々にではありますが吸い取られています!』
こちらも何とか分離しようと試みるが、そう簡単に拘束が解けるわけもなく。
『ヒャハハハ!そっちの紫のは気付いたみてぇだな。あんましチンタラしてっとお前等のエネルギー根こそぎ頂く事になるぜ?』
下卑た笑い声を発しながらエイジスが言う。そう、トーファスとアクマリナー。この2機は本来戦闘用の操機ではない。敵機を捕獲、拘束した後にその相手のエネルギーを吸収して奪うという能力を持った捕獲型の操機だった。
『まぁ、もってあの太陽が沈むまで、ってとこか。ちょっと待ってりゃすぐだな。』
ザルドニクスが西に大きく傾いた太陽を指差して言う。時間は1時間とかからずに太陽は沈むだろう。それまでにエイジスを倒さなければトライガンナー、ファングレイヤーの命は中の人間共々失われてしまう。
『ホラさっさとかかってこいよ赤いの。仲間がおっ死んじまうぜぇ?』
更にゼクシードに向かってエイジスは挑発する。ゼクシードは剣を構えたまま微動だにしなかった。
<ゼクサー、やるしかないよ。このままじゃ麗佳ちゃんや纏さんも危ない!>
『・・・そうだな。一刻も早く奴を倒すしか・・・!』
<一気にいくよゼクサー!>
『おぉっ!』
翔の提案を受け入れたゼクシードが、その両手に持った剣の柄頭を合体させる。そして長刀状になったツインキャリバーを胸の前で高速回転させた。
『うぉぉぉぉぉ!サークリング・ヒィィィィトッ!!』
回転から生み出された炎の環をエイジスへと放つ。そして今度は分離させたツインキャリバーの峰の部分同士を合体させ、一本の巨大な剣を作りあげた。
『エクステンド・ザンバァァァッ!!』
サークリングヒートを真正面から受け、紅蓮の炎に磔にされたザルドニクス目掛けて、空高く舞い上がったゼクシードが剣を振り下ろす!
『ヴォルカニック・エン―――――』
・ ・・しかし、その台詞を最後まで言う事は出来なかった。
『こぉぉぉなくそぉぉぉっ!!』
ガキィン!
何と、裂迫の気合と共にザルドニクスが紅蓮の拘束を破り、持っていた大剣でエクステンドザンバーを受け止めたのだ。
<えぇっ!?>
『な、何ぃっ!?』
翔とゼクサー、2人の驚愕の叫びが重なる。そしてその直後、パキィンという澄んだ音を立ててエクステンドザンバーの刀身が砕けた。この瞬間、ゼクシード最大の必殺技が―――破られた。
『おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!!』
ザルドニクスが空いた左手でゼクシードを横から殴り飛ばす。必殺技を破られたショックで無防備だったゼクシードの体が宙を舞った。
<うわあぁぁぁぁっ!>
翔の叫びが尾を引きながら、無残にも激しく地面に叩きつけられたゼクシードは起き上がる事すらできず地面に横たわった。
<・・・・・・・・>
『ぐっ・・・大丈夫かツバサ?ツバ・・・ぐぁっ!!』
翔を呼んでも返事が返ってこない。どうやら今の衝撃で気絶してしまったらしい。そこへ追い討ちとばかりに、動く事の出来ないゼクシードへザルドニクスが二発・三発と蹴りを入れる。十数回蹴られた後に胸を踏みつけられた所でゼクシードの意識も暗い闇の中へと落ちていった・・・。
―――――・・・・・・―――――
何処までも深い闇の中だった。
前にも、同じ光景を見たような気がする。
―――――目覚めなさい―――――
やっぱりあの時と同じ"声"だ。初めてゼクシードに合体した時の・・・誰?誰なの?
―――――目覚めなさい。勇気ある者達よ―――――
ねえ、ここはどこ?ゼクサーは?ゼクサーはどうなったの!?
―――――かの者ならば、ほら、貴方の隣に―――――
『ツバサ?ツバサなのか?』
あ、ゼクサー!ねえ、僕達は死んじゃったの?
―――――死んではいません。今は意識だけが"此処"にある状態です――――
意識だけ・・・じゃぁ僕達は・・・
―――――ええ。貴方達の本来の身体はまだあの場所にいます―――――
『・・・!そうだ。私はヴォルカニック・エンドを受け止められて・・・。』
―――――今、貴方達の身体は危機を迎えています―――――
そうだ!麗佳ちゃんや纏さんを助けなきゃ!
『しかしどうやって!あの時に私の剣は・・・』
でも、僕が・・・僕達が何とかしなきゃダメなんだよゼクサー!
『それはわかっているが・・・しかし・・・』
僕だって怖いよ・・・。でも、逃げちゃダメなんだ!麗佳ちゃんや纏さんを助けるんだ!
『・・・・・・』
ゼクサー、前に言ったよね?僕に隊長になって欲しいって。今までずっと答えてなかったけど・・・。
『ツバサ?突然何を・・・』
・・・僕、やるよ。怖いけど、ゼクサー達の隊長になるよ!
『・・・・!!』
だからゼクサー!僕の最初の命令だよ!ここから戻ってアイツをやっつけるんだ!
『ツバサ・・・。そうだな。私達が何とかしなければ。いつまでもここに居るわけにはいかない!』
―――――答えは決まったようですね―――――
うん!
『ああ!私達を早くここから出してくれ!』
―――――わかりました。ならば赤き者に聞きます。貴方は力を欲しますか?―――――
『力・・・?』
―――――ただし、この力は破壊の力。諸刃の剣。使えば貴方の命の保証は・・・ありません。それでも――――。
大丈夫だよ。僕達は絶対に負けられないんだ!
『ツバサの言う通りだ。例えこの身が滅びようとも・・・ギルナーグの好きにはさせない!』
―――――頼もしいですね。小さき者よ。ならば貴方に力の鍵を預けます――――
誰かはわからないけどありがとう!ゼクサー、戻ろう!
『ああ。礼を言う。』
―――――また遠からぬ先に会う事もあるでしょう。その時に――――
『ケッ、何だよ。これで終わりかぁ?』
ゼクシードの胸を踏みつけたままの状態でエイジスが呟く。
『ムカつくぜ・・・。この程度のザコが今までこの俺にケンカ売ってたなんてよ!』
そう叫ぶと、剣を逆手に持ち替えて振り上げる。狙いは胸の中心だ。
<翔君!ゼクサー、お願い起きて!!>
『クソッ!この拘束さえ・・・』
『クッ・・・何とかなれば・・・っ!』
<翔君、翔君っ!!>
絶望の十字架に磔にされた麗佳達の叫びが虚しく響く。
『これで終わりだ・・・あばよクソ勇者!!』
<やめてえぇぇぇぇぇっ!!!>
麗佳の叫び声とザルドニクスが剣を振り下ろそうとしたその瞬間!
ガシイッ!!
今までピクリとも動かなかったゼクシードの右腕が、刺さる寸前だった剣の刀身を握り止めた。
『何っ!?』
驚愕と喜びの混じった叫びを上げるエイジスをよそに、ゼクシードが掴んだままの刀身を割り砕く。
先程エクステンドザンバーが折られた時と同じ音が周囲に響いた。そしてその反動でよろけたザルドニクスがゼクシードの胸から脚を浮かせる。
『バースト・・・・ブラスターッ!!』
バランスを崩したザルドニクス目掛けて、上体だけ起したゼクシードが胸から火炎を放つ。
『ヒヒヒ、ま〜だこんな力が残ってやがったのか。いいねぇいいねぇ!!』
バーストブラスターの直撃を受けながらも平然と笑いながらザルドニクスはその場に立っていた。
『ゼクサー!あの野郎生きてやがったぜ!』
<翔君!!良かった・・・>
歓喜の声を上げる仲間達。しかしその声は翔達には届いておらず、その視線は真っ直ぐにザルドニクスに向けられていた。
<僕達は・・・・>
『負けられないっ、絶対にっ!!』
ゼクシードがゆっくりと立ち上がる。満身創痍ながらもその身から放たれる鬼気にエイジスが一瞬怯んだ。
それを見たゼクシードが構える。そして両手をクロスさせると、その腕に本来不可視のエネルギーの奔流が赤い色をして集まる。
<いくよゼクサー!フルドライブ・オーバーブレイク!!>
新たなる開放の鍵を唱えると、ゼクシードの額へと光が集まり、そして―――
『リミット開放!オォォォバァァァモードッ!!』
振り払うように両手を広げると、"力"を解放したゼクシードの身体が金色へと変わり、その周囲を護るかのように真紅のエネルギーが全身を包み込んだ!
『・・・そうだ!そうだそれだよ!アッサリ終っちゃ面白くねえ!来い操機どもよ、俺に力を貸しやがれ!!』
ザルドニクスが手を振り上げると、今まで待機していた残り3機の操機が光に包まれザルドニクスの下へと集約した。そしてそれぞれが右手へ剣・左腕へ盾・胴体へ鎧、と姿を変え装備される。
『ヒヒヒ・・・フルアーマーザルドニクス!ってかぁ。ヒャハハハ!』
ゼクシードの真似をして名乗りを上げると、再び狂ったように笑い出すエイジス。今、決着の時が訪れようとしていた。
『食らえぇぇぇぇっ!!』
『うおぉぉぉぉぉっ!!』
裂帛の気合いと共に間合いを詰めたエイジスが一息に斬りつけるのと同時に、ゼクシードもその輝く拳を繰り出した。剣と拳がぶつかり合う。その衝撃で地面がめくれ上がった。
『そんな生っちょろい拳なんざぶった斬って・・・・何ぃ!?』
今度のエイジスの叫びは純粋な驚愕から生まれたものだ。何とゼクシードの拳が剣を押しているのだ。
『やるじゃねぇか!だが、それで終わりと思ってんじゃねぇぞっ!!』
FAザルドニクスが左腕の盾を正面に構えると、そこから放たれた極大のビームがゼクシードを吹き飛ばした。瓦礫の山へと頭から突っ込む。しかしそこから立ち上がったゼクシードの身体には傷一つついていなかった。更にいつの間にか先程受けたダメージもすっかり修復されている。
『何・・・だと?アレ食らって無傷ってか!?』
『おおおおぉぉぉおぉぉぉおおおおっ!!』
ドンッ!
雄叫びを上げて今度はゼクシードが間合いを詰める。そしてそのまま猛烈な右ストレートを放つと、防御していた盾ごとFAザルドニクスの腕を吹き飛ばした。エイジスは何があったかもわからずにただ宙を舞う左腕を見つめると――――
『俺の腕・・・?ナメんなぁぁぁぁっ!!』
激昂し、残った右手で斬りつける。しかしその刃はゼクシードまで届かず、眼前のエネルギーの奔流に絡め取られてしまい身動きが取れなくなった。
<これで・・・!!>
『トドメだっ!熾天剣のエイジスッ!!』
ゼクシードの両手に今まで全身を包んでいた二色の光が集まる。そして真紅の左拳を相手の胸へと叩き込む!
<烈!>
左拳から放たれたエネルギーがFAザルドニクスを包み込むと、見る見る内にそのエネルギーは炎へと姿を変え、ザルドニクスの装甲を
舐めまわす。
『ぐぁぁっ!何だこの炎は!?鎧が・・・溶けるだと!?』
尋常ではない熱量を防ぎきれず、FAザルドニクスの鎧が融解していく。
『火ぁっ!』
金色に輝く右手が今しがた狙った場所目掛けて放たれる。金色の光は純粋なエネルギーの光。全てを無にする力だ。
<咆!!>
『こ・・・のぉぉっ!!』
全身を炎に包まれながらも、FAザルドニクスが剣を振る。が、ゼクシードの右拳とぶつかり合った瞬間、剣は持っていた右腕ごと粉々になった。
『哮ォォォォォォォッ!!』
紅と金、2つの莫大なエネルギーが合わさり、一つの破壊の力を生み出す!
『ヴォルカニック・タイラントッ!!』
交わったエネルギーの奔流同士がぶつかり合い、対象を灰燼へと還す。その力の前にはザルドニクスも屈するしかなかった。
『そんな・・・そんな馬鹿なぁぁぁぁぁっ!!!』
ドゴォォォォォォンッ!!
エイジスの断末魔の声が尾を引きながら、激しい爆発と共に周囲一体が閃光に包まれた。
『ミッション・オーバー』
ゼクシードの胸の鳥が一声、エイジスへの手向けのように鳴き声を上げた。
ザルドニクスが爆発する刹那、その中から小型の戦闘機のような飛行物体が飛び出していた事にゼクシードは気づかなかった。それは万一の時の為に用意されていた脱出ボッドだ。
「クソッ・・・・クソッ、畜生!!」
ヴォルカニックタイラントを受ける直前に脱出ポッドでの離脱に成功していたエイジスはそのコクピットの中で1人ごちた。
・・・決着はついた。彼の決して望まぬ結果に。
「こうなったら・・・何処までも逃げてやる!何処までも・・・」
同じ事を延々と呟くエイジス。ポッドが大気圏を抜けたその時だった。突如目の前の空間が歪むと、「彼」が姿を現した。
「何処へ行くつもりだ?エイジスよ。」
空間を切り裂いて現れたのは漆黒の鎧で全身を包んだ騎士――オルティアだった。心配して様子を見にきた訳ではないのはエイジスにもわかる。オルティアは彼を「抹消(け)」しに来たのだ。
「なっ・・・!?どけぇオルティア!俺の邪魔をするなぁっ!!どけどけどけぇぇぇぇっ!」
ここで自分の命が絶たれる事を知り、完全に我を忘れてオルティアへ突っ込んでくるエイジスを見て、彼はフゥ、と溜息をついた。
「やれやれ・・・負け犬の末路としては余りにも惨めだな。」
そう呟いて背中に背負った大剣を抜く。オルティアが構えをとると、その大剣から漆黒の炎が噴き出した。
「貴様も戦士だろう?ならば最後は潔く・・・・散れいっ!!」
衝突する寸前に剣を振り下ろし、交差するポッドとオルティア。その次の瞬間には、エイジスの脱出ポッドは見事に正面から両断されていた。そして一瞬の閃光に周囲は包まれる。後にはオルティアと脱出ポッドの残骸だけが残されていた。
「フン、グランドライゼス様から力を賜っておきながら・・・エイジス、哀れな奴よ。」
そこまで言ったところでふと、オルティアが爆砕した破片の中に何かが紛れているのを見つけた。近づいて手にとると、それはエイジスが懐にしまっていた残り1枚の召喚銭だった。
「これは・・・・フ、せめてもの情けだ。これは大いに利用させて貰うぞ。」
召喚銭を握りしめ、誰もいない虚空で1人呟くと、オルティアは羽織っていたマントを翻し、再び闇の中へと消えていった。
「勇者どもよ、これで終ったと思わん事だな。我々の本当の戦いは・・・これからだ!」
ザルドニクスが爆発した直後、トライガンナーとファングレイヤーを拘束していた十字架は自壊し2機は自由の身となった。
トライガンナーから降りた麗佳が、戦闘後から棒立ちになっているゼクシードへと駆けていく。その後を同じ様に纏が追いかけた。
「翔君!ゼクサー!!」
「2人ともよく頑張ったじゃない。おかげで私達も無事よ。」
ゼクシードから降りた翔の下へと笑顔で駆け寄る2人。
「麗佳ちゃん・・・纏さん・・・」
しかし翔はうつむいたまま顔を上げようとはしなかった。心なしか声が震えている。
『この野郎!よくやったじゃねーか!』
『見事でしたよゼクサー。あなたを見直しました。』
トライガンナーとファングレイヤーも横へと並び声をかける。しかしゼクシードは消え入りそうな声を上げただけだった。
『ガン・・・ズ・・・シャ・・ファン・・・後・・・は・・・』
不審に思いながらもトライガンナーが軽く小突く。
『ん?おい、何言ってんのか聞こえ・・・』
グラッ・・・
その瞬間、いち早く事の異常さに気づいたファングレイヤーがゼクシードを抱き止めた。そして更に驚愕する。
ゼクシードの両腕の肘から先が―――――無くなっていた。
『!?ゼクサー、どうしたのですか、ゼクサー!?』
『ちょ・・・オイ何ふざけてるんだよ、オイッ!!』
力なく膝をつくゼクシードを見上げ、麗佳と纏の表情も凍りついた。
「ちょっと・・・どう言う事よ・・・。」
「嘘・・・ねえ嘘でしょ?翔君!嘘って言ってよ!」
最悪の想像を振り払いたい気持ちで纏が翔の肩を揺さぶる。ゆっくりと顔を上げた翔の表情には、涙が溢れていた・・・。
「纏さん・・・麗佳ちゃん・・・、僕、約束したんだ。ゼクサー達の隊長になるって。それなのに・・・」
流れる涙を拭おうともせず、ゼクシードを見上げる翔。
「なのに・・・ねえ、起きてよゼクサー・・・僕達勝ったんだよ。悪いヤツをやっつけたんだよ?ねえ・・・」
ゼクシードは答えない。その両目と額の輝きは失われていた。そしてそれが意味するものは―――
「ゼクサァァァァァァァァァァッ!!!!!」
――――崩れた街に、翔の絶叫だけが響き渡った――――
2016年8月。一つの脅威は去った。だがしかし、それはこれから始まる激闘のほんの序章でしかなかった。
勇者戦記ゼクシード Episode1 宇宙からの来訪者 〜完〜
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あ と が き
お待たせしまくり!・・・どころの騒ぎじゃないですねハイorz
勇者戦記ゼクシード第7話「爆炎の暴君(タイラント)」をお送りします。
いつものツッコミキャラは今回無し!
今回の7話で、ゼクシード第一部は終了となります(短か!)
あ、いやいや。それぞれの節目って事で「完」とはしてますが
話はこれからも続きマスヨ?(汗
次からは第二部の開始となります。
GEGを襲う新たなる刺客とは!?
毎度毎度ちょっかい出してくる謎の声の正体は!?
そしてどうなるゼクサー!頑張れ主役!
今後もどうぞ、生暖かい目で見守ってやってください。
2005年3月 動輪