第1話 勇者の剣

 ここは太陽系から遠く離れた宇宙の彼方。

 今ここで激しい戦いが起こっていた・・・・・・。

 戦っているのは巨大な宇宙戦艦と光のように見える5人のエネルギー生命体だった。

 今、戦いは終わりに近づこうとしている。

 戦況はエネルギー生命体の方に分があるらしく、戦艦はかなり破損していた。

 今もエネルギー生命体の1人が攻撃を加え、砲塔の1つを破壊する。

――観念しろ!『惑星砕き(プラネット・スマッシャー)』!!――

 光の1つが戦艦に向かって叫ぶ。

――貴様達の企みは、我々『宇宙警備連邦』が打ち砕く!!――

 すると戦艦から『惑星砕き』の野太い声が答える。その声は聞く者を震え上がらせる位ドスの聞いた声だった。

「やるじゃぁねえか!落ちこぼれの辺境警備隊さんたちよ!だが俺らもここでてめえらにとっつかまるわけにはいかねぇんでな!ここは引かせてもらうぜ!」

――そうはさせん!――

 なおも追撃をかけようとする1人を、他の隊員が抑える。

――ゼクサー!だめです!今増援が来ます。深追いは禁物です!――

――くっ・・・止めるなシャドーファング!チャンスは今しかない!!――

 ゼクサーと呼ばれた光は仲間の静止を振り払う。

――俺もゼクサーと同意見だ。これが俺たち、名誉挽回の最後のチャンスかもしれないんだぜ。――

――自分もやるのは今しかないと思います!――

 他の2人、マッハガンナーとグランガンナーがゼクサーに賛成する。

――ビッグガンナー、あなたはどうなんです?――

 ゼクサーを止めた光―シャドーファングが尋ねる。

――マッハガンナーとグランガンナーまで賛成してるんだ。決まっているだろう?――

 ビッグガンナーの一言で、彼も覚悟を決めた。

――ふぅ・・・、仕方がありませんね。ゼクサー!奴らは「空間跳躍(リープ・ジャンプ)」をするつもりです。その前にカタをつけます!――

――わかった。一気に行くぞ!――

――了解!!――

 5人は一塊りの光となって戦艦に向かう。しかし5人が戦艦に突撃しようとしたその時――

ズバアァァァン!!

――ぐわああぁっ!――

 ゼクサーたちと戦艦の間を通すように一筋の閃光が通り抜けた。

「おお、あんたか。助かったぜ。」

『惑星砕き』は光を放った主に向かって話しかける。

「ゲイオスよ・・・遊んでないでさっさと『コスモエナジー』を集めろ。われらの主がお待ちかねだ。」

 たった今、ゼクサー達を吹き飛ばした者が言う。彼の姿はさながら悪魔の鎧をまとった戦士の様だった。

「ああ、わかってらぁ。見てろ、『太陽系』って所の『地球』って星を見つけたんだ。今にどえらいエナジーを持って帰ってくるからな。」

「『地球』、か・・・よし。私も行こう。貴様だけだといささか心配なのでな」。

「ちっ。言っとくが手柄はわたさねえからな!」

「いいだろう。ジャンプの準備もできたようだな。跳ぶぞ。」

 謎の戦士はそう言って戦艦の甲板に乗る。

――ま、待て!――

 ゼクサーたちはなおも追いすがる。

「あばよ!へっぽこ勇者共!」

 そう言い残しリープ・ジャンプを開始する宇宙戦艦。だが、神もゼクサーたちを見放したわけではなかった。

――行かすわけにはいかん!――

ズドオォォンッ!!

 偶然にもビッグガンナーの一撃が戦艦に命中する。それが宇宙戦艦にとって致命傷となった。

「しまった!!機関部に当たりやがった!おめえら状況を確認しろ!」

 そう言ってあせる『惑星砕き』。周囲のクルー達も慌てている。

「何をしているゲイオス!出力が安定してないぞ!」

 謎の戦士が怒鳴る。それにクルーの声が重なる。

「まずいです親分!このままじゃ暴走しやす!!これじゃ『太陽系』のどこに出るかわかんねぇっすよ!」

「いますぐリープ・ジャンプを止めろ!」

「ムリです!もう止まりません!」

 それを裏付けるかのように戦艦を中心に周囲が歪む。

――!?ゼクサー!周囲の空間が歪んでいます。このままでは我々もジャンプに巻き込まれます!――

――何!?急いでここから離れるぞ!――

――了解であり・・・――

 彼らの会話を『惑星砕き』が遮る。

「そうはいくか!こうなったらてめえらも道連れだ。地獄の果てまで付き合ってもらうぜ!」

 どうやら意地でもジャンプをするつもりらしい。それを聞いて謎の戦士の顔色が変わる。

「なっ・・・!?気でも触れたかゲイオス!下手をすれば跳躍空間から出られなくなるかも知れんのだぞ!動力炉をとめ――」

「せっかく見つけた宝の山を・・・放っておけるかよぉっ!!」

バシュウッ!

 戦士が言い終わらないうちに戦艦の砲塔からビームが放たれ、ゼクサー達5人を拘束する。

――うぐぅっ!これはトラクタービーム!?――

――ちくしょう!体がうごかねぇ!――

――くそっ!万事休すか・・・。――

 皆が諦めかけたその時、ゼクサーの体がより一層の輝きを見せる。

――私は・・・最後まで諦めん!!うおおおぉぉぉおっ!――

バキィンッ!

 ゼクサーを拘束していたビームがゼクサーの渾身の力で弾けとんだ。

――何としても止める!宇宙警備連邦の名にかけて!――

 そう叫んだゼクサーの手に輝く剣が現れる。

「なんと!あのビームを破ったってか!?でももうゲーム・オーバーだ!」

「冗談ではない。やはり私は降りるぞ!」

 謎の戦士はそう言い残すと虚空へと消え、直後にはゼクサーが戦艦に肉薄していた。しかし、時すでに遅し。暴走したフィールドはもう彼らも一緒に包み込もうとしていた。

「ハァーッハッハッハッ!勇者ご一行様ご案内!ってか?ヒャハハハハハ!」

 『惑星砕き』の狂ったような笑いがあたりに響き、戦艦はリープ・ジャンプした。

 ゼクサーたちも巻き込んで――――





――う・・・ここは・・・――

 気が付くとゼクサーは宇宙空間に漂っていた。

 どうやらジャンプは終了したらしい。ゼクサーはあたりをスキャンしてみる。周りに仲間の姿は無いようだ。眼下には蒼い惑星が見える。 

 今彼はその星の引力に引っ張られていた。

――ここは一体どこ・・・ぐぅぅっ!――

 突如ゼクサーは全身を襲う痛みに苦痛の呻きを漏らす。

 何の準備もなしでリープ・ジャンプをしたため、彼の体はズタズタになっていた。生きているのが不思議なくらいに・・・。

――う・・・、皆は・・無事だろうか・・・?『惑星・・砕き』達・・・は・・・――

 薄れ行く意識の中、ゼクサーは自分を引いている星が、偉大な先輩を生み出した『地球』という星に似ている・・・と思っていた。そして彼はまさにその『地球』へと落ちていった・・・。



―――そして地球時間にして半年の月日が流れた―――





2016年6月―ここは日本の某県にある神楽ヶ丘市。
 
今、アスファルトで舗装された道路を小学生位の少年と少女が大急ぎで駆けていく。

「翔(つばさ)君!待ってよ〜。」

 遅れがちな少女の方が息を切らせながら前を走る少年に言う。ワンピースを着た少女が走るたびにポニーテールが大きく揺れた。

「麗佳(れいか)ちゃん!早く早く!コンテストに遅れちゃうっ!」

 翔、とよばれた少年が振り返る。ハーフパンツに赤いTシャツ、パーカーを着て、その手には箱を持っていた。翔が走るたびにその箱の中からカチャッ。と音がする。

「どうして寝坊なんてしたのよ!もう〜。」

 麗佳はかなり怒っている。ポニーテールを揺らせながら気の強そうな瞳が翔を睨みつける。

「し・・・しょうがないじゃないか。『これ』が完成してなかったんだから。」

 翔がややたじろぎながらも箱を指して反論する。

「まったく、プラモなんてどこがいいのか・・・。」

 そう、翔はプラモを作っていたのだ。さっき翔が言っていた「コンテスト」というのも行きつけの模型店で開催されるプラモコンテストのことだった。そこに出品する模型を作っていたら寝坊してしまったのである。

「今回のは自信作だから、絶対入賞するよ!このペンダントもあるしね。」 

 自信満々に首から下げているペンダントを見せ翔が言う。半年前に考古学者として世界中を飛び回っている父から貰ったものだ。青い五角形のクリスタルを鎖で繋いだだけのものなのだが、これを身につけて以来、彼の周りでは幸運なことが続いている。

「はいはい。期待してるわよ。」

 麗佳が気の無い返事を返す。当然ながら翔の趣味は麗佳には解らなかったし、ペンダントの効果も偶然だと思っている。

「着いた!あそこだよ!」

 そうこうしているうちに2人は目的の模型店へと着いた。その店はあまり大きくはないが、しっかりとした佇まいをしていた。

麗佳より先に着いた翔は元気いっぱいに店の扉を開けた。

「こんにちはっ!博士っ!」

 翔が中に入ると、もうコンテストに出展するプラモを持った参加者が集まっていた。

「おお、いらっしゃい。」

 この店の店長―斎賀 弦十朗(さいが げんじゅうろう)―が翔を迎える。彼はいつも白衣を着ていることから『博士』と呼ばれ子供達に親しまれているのだ。

 そこに遅れて麗佳も中に入ってくる。

「うわっ、すごい人ね。」

 麗佳が参加者の多さに驚嘆の声を上げる。

「翔君、その子はガールフレンドかい?にくいのぅ。」

 弦十郎が翔に向かってからかうかのように聞く。

「ち、ちがうよ。友達だよ、友達!」

 顔を赤くしながら翔が否定する。麗佳も真っ赤になってうつむいている。

「ハッハッ。冗談じゃよ冗談。さ、受付しておいで。もう始まるよ。」

 笑いながら弦十朗が翔を促す。それに従って2人は受付をしている店員の所へと向かった。店員に向かって翔は挨拶をする。

「こんにちは。纏(まつり)さん。」

 纏、と呼ばれた女性店員が翔のほうを向く。

「あら翔君いらっしゃい。遅かったわねぇ。どうかしたの?」

 纏は店長の孫娘で大学生だ。物を作ることが好きで祖父である弦十朗の手伝いをしている。ショートカットで長身、とスポーツでもやっていそうな出で立ちだが、実は運動オンチでマンガヲタクだったりする。

「ちょっとコレを作ってたら寝坊しちゃったんだ。」

「ふ〜ん。それで納得のいくものは出来た?」

「うん!見てよ!」

 そう言って翔は箱を開けた。すると中から現れたのは――

「車?今回はロボットって言ってなかった?」

 そう言って麗佳は翔の方を向く。今回のコンテストは麗佳の言うとおりロボットを題材としたコンテストなのだ。しかし翔が見せたのは車。これでは題材から外れてしまい、失格になってしまう。

「翔君、今回の題材はわかってるわよね?」

 纏も不思議そうに見ている。ところが翔はしたり顔で

「ただの車じゃないよ。まあ見ててよ。」

 そう言って翔は赤く塗られた車を手にとった。

 すると翔の手の中で赤い車がその姿を変えていく。

 車の中心から前面が持ち上がり、天井だったところからつま先が現れ足を形成する。

リアのドアより後ろが左右に分かれ広がり、側面が開き折り畳まれていた腕が出てくる。

ボディー下部が上下に伸び、胴体になると同時にロボットの頭部が現れる。

 あっという間に赤い車は真紅のボディーを持つロボットに変形した。

「うわぁ!すごい!車が変形しちゃったぁ。でも、こんなの売ってないわよね?」

 麗佳が驚きながらも疑問を口にする。翔が麗佳に言う。

「これは『フルスクラッチ』って言うんだよ。」

「フル・・・スク?」

「フルスクラッチって言うのは、簡単に言うと何もかも自分で作りあげたプラモなのよ。」

 纏が麗佳に説明する。

「でも翔君すごいわね。フルスクラッチなんて大人でもなかなか出来ないものなのに。」

「へへ。お父さんに教えてもらったんだ。」

 照れる翔。そこへ弦十朗が現れ纏に声をかける

「纏。そろそろ始めようかのう。」

 纏が返事を返し、参加者に呼びかける。

「OK!おじいちゃん。では皆さん!これよりロボットコンテストを開始します!!」

 そう纏が言った直後、異変は起きた・・・。




―――話は少し前にさかのぼる―――

 翔と麗佳が店に入った時と同じくして、近くのビルの上に佇む3つの人影がいた。そのうちの1人は以前、宇宙で『惑星砕き』と呼ばれた人物と一緒に居た戦士だった。

「ここが地球か・・・。なるほど、ゲイオスの奴が言っていただけのことはありそうだ。」

 戦士は何かを感じているようだが、彼の右隣に居る痩躯の人物が訝しげに彼に向かって尋ねる。

「おい、ホントにこの星でいいんだろうな?」

 左隣にいる人物―こちらは派手なファッションに身を包んだ女性だ―も痩躯の男に賛同する。

「エイジスの言うとおりだよ。ゲイオスみたいな小物の言う事を真に受けてさ。あんたもバカだね、オルティア。」

「・・・・・・。」

 戦士―オルティアは沈黙で答える。

「ケケケ。まあそう言うなやレザード。オルティアは『遺言』に従ってるだけなんだからよ。」

 エイジスはそういって笑いながらレザードを嗜める。

「でもまぁ、来るだけ来といてなーんもナシ。ってのもつまんねーよな。そうだ!オルティア、俺にやらせてくんねーか?『コスモエナジー』捜し!ポイントはこの辺なんだろ?ならテキトーにぶっ壊してりゃすぐ見つかるって。」

 エイジスが指を鳴らしながらオルティアに問う。

「本当のところは破壊したいだけなんだろ?この星をさ?」

 横からレザードが口をはさむ。エイジスがこめかみに汗を浮かべてそっぽを向いたのはレザードの指摘が図星だったからだろう。

「・・・・・・。いいだろう、エイジス。好きにするがいい。ただし、くれぐれも壊すなよ。この星をな・・・。」

 そう言い残してオルティアは以前のように虚空へと消えた。

「あっ!?待ちなよオルティア!」

 レザードもオルティアの後を追うようにして虚空へと消える。

 残ったのはエイジス1人だった。

「ふむ。この程度の文明なら『操機(アード)』で十分だな。クックックッ・・・。見てろよオルティア、このエイジス様の力を。」

 エイジスはそう言うと懐から500円大のチップを取り出す。そしてそれを空に向かって放り投げた。

「来やがれ!『操機』ルヴィア!

 天に向かってエイジスが叫ぶと黒雲が空を覆い、その中から一体のロボットが現れた。

「行けルヴィア!地球人共をぶっ潰せ!ついでにコスモエナジーも捜せよ!」

 エイジスがそう命令すると、ロボットは手に持っていたライフルを手近な建物に向けて撃った。

ズガアァァァンッ!!

 ロボットが撃ったビルは派手な音を立てて木っ端微塵になった。中にいた人たちごと・・・。





ズウゥゥゥン・・・

「なんじゃ!?今の音は?」

 異変に気づいた弦十郎が外に出て行く。纏と翔もその後を追った。

「おじいちゃん!今のは一体・・・。」

 そこで纏は言葉を切ってしまった。いや、言葉が出なかった。

「何・・・アレ・・・。」

 纏の横で翔も呆然としている。

 翔は映画の撮影か何かだと最初は思った。そう思いたくなるほど目の前の光景は常軌を逸していた。

 巨大なロボットが町を破壊しているのだ。手当たり次第に建物を破壊するロボット、まるでテレビの特撮番組から抜け出してきたかのようだ。

「なにをボケッとしているんじゃ纏!翔君!お客さん達を非難させるぞ!」

 いち早く我に帰った弦十郎が纏達に怒鳴る。

(まさかあいつの言うた通りになるとはのう。とすればどこかに“彼ら”も・・・。)

 2人が参加者達を非難させようとしている時に弦十郎は一人ごちる。

「おい!外のあれはなんだ!?」

「ロボットが暴れてるぞ!こっちに来る!」

 参加者の内の何人かが外の光景に気づき、大声を上げる。

「落ち着いて皆さん!落ち着いてくだ――」

 纏の静止も空しく店内はパニックになる。パニックに陥った参加者たちの渦に、麗佳は巻き込まれていた。

(何々!?いったい何が起こってるの?ロボットってさっき言ってたわよね。翔君は無事なの?あの纏さんって人は――)

 そんなことを考えている内にもみくちゃにされながらも麗佳は外に出ることができた。

「あっ!麗佳ちゃん大丈夫!?」

 翔が麗佳に気づき駆け寄る。

「大丈夫だけど・・・。何があったの?」

 どうやら麗佳は今起こっている事態を知らないようだ。

「ロボットだよ!ロボットが暴れてるんだ!」

「はぁ?一体何言って―――」

ドコオオォォォォン!

「うわっ!?」

「きゃあっ!」

 また1つ建物を破壊して、ルヴィアが翔達の近くまで迫ってくる。そこに2人を見つけた纏と弦十郎がこちらへとやってきた。

「2人共何してるの!早く逃げて!!」

 纏が翔達を促す。だが翔は別のことを気にかけていた。

「纏さん、博士。お店が・・・、お店が壊されちゃうよ!」

 翔は自分のことよりも店の心配をしていた。

「お店のことなんていいから早く!」

 思わず厳しい声を出す纏。ビクッとした翔に弦十郎は優しく声をかけた。

「翔君、気遣ってくれてありがとうよ。だが店などまた建て直せばいい。生きてさえいればいくらでもチャンスはある。さ、もうロボットがそこまで来ておる。残っているのは君達だけじゃ。急いでここから離れるんじゃ!」

「博士・・・。わかったよ。麗佳ちゃん、行こう!」

 弦十郎に言われ翔と麗佳が駆け出す。だがそこで悲劇が起こった。

「あっ!」

 いくらも行かないうちに短い悲鳴をあげて麗佳が倒れる。彼女が足元を見ると靴紐がほどけていた。さっきのパニックの時にほどけたのだろう。

「麗佳ちゃん!」

 翔が手を貸して立ち上がるが―

「ありがと翔く・・い、痛っ!」

 麗佳は今の転倒で足を捻ってしまっていた。これでは走れそうにも無い。

「翔君!どうかしたの!?」

 纏と弦十郎が追いつく。

「纏さんに博士!麗佳ちゃんが足を・・・。」

 弦十朗が麗佳の足を見て言う

「いかんな・・・。これでは歩けんぞ。」

「どうしよう・・・、ああっ!?」

 ルヴィアを見た麗佳が叫び声を上げる。その声で後ろを見れば、ルヴィアがライフルの銃口をこちら側に向けていた。4人に気づいたようだ。

「しまった!気づかれたか!」

 弦十郎が歯噛みする。

「そんな!」

 纏も悲鳴を上げる。

「私達・・・死んじゃうの・・・?」

 麗佳が絶望の嗚咽を漏らす。だが・・・・・翔だけは諦めようとはしなかった。

「死ぬなんて僕はいやだ!そんなの・・・いやだああああぁぁぁっ!!」

 そんな叫びも空しく、無情にもライフルが火花を吹いた。

バシュウゥゥッ!!

―――閃光が4人を包んだ―――。





 そんな様子を空からエイジスが楽しげに眺めていた。

「ハハハハハ!いい!いいぞルヴィア!その調子でどんどんぶっ壊せ!!」

 彼はもはや当初の目的を忘れていた。逃げ惑う人々、崩れ落ちる建物、燃え上がる炎―そういったものが彼を高揚させる。まさに『血に狂う』という表現がピッタリだった。狂ったように笑っている。だが彼は不意に笑うのを止めた。何かを見つけたからだ。

「アハハハハハッ!ハーッハッハッ・・・って、なんだありゃぁ!?」

 見ればちょうどルヴィアの目の前、翔達が居る筈の所が眩く光っている。

「コスモエナジー・・・なワケねえな。だとするとアレは一体何だ・・・?」

 ―――しばらく後、彼は屈辱を味わう事になる―――





「・・・・・・・・・?」

 4人は思わず身構えていたが、衝撃はいつまでたっても来なかった。

「どうしたんだろう?・・って・・・えぇっ!?」

 翔が恐る恐る目を開けると、そこには信じ難い光景が広がっていた。何と彼の胸のペンダントが光の壁を作
って4人を護っているのだ。

「こ、これって一体・・・?」

 翔もエイジスと同じ疑問を口にした。

 その時不意にペンダントのクリスタルから『声』が聞こえた。

――今、この星に恐ろしい敵が来ている。さあ勇気あるものよ、私の名を呼べ!私は――

「ぅわっ!?誰、誰なの?」

「翔・・・君?」

 うろたえている翔に心配そうに麗佳が声をかける。

「勇気あるもの、って僕のこと?」

 麗佳の声が聞こえていないのか、翔は1人で『誰か』と会話をしている。

――そうだ。君の勇気が私を復活させる「鍵」なんだ。呼んでくれ、私の名は――

「や、やだよ・・・。怖いよ・・・。」

「翔君、何がおこったんじゃ!?翔君!」

 弦十郎の声も翔には届いていない。それは纏も同じだった。

「翔君・・・。」

 怯える翔に『声』が語りかける。

――怖がることはない。さあ叫ぶんだ。『ブレイブ・エンター』と!――

「それで・・・皆が助かるの?」

――ああ。私に任せてくれ!――

「わかった。皆を助けられるなら、僕やるよ!」

――よし!クリスタルをかざして呼ぶんだ!――

「うん。いくよ!」

 翔がクリスタルをかざして叫ぶ。

「ブレイブ・エンターッ!!ゼクサアアァァァッ!!」

――おおおっ!!――

 翔が叫ぶとクリスタルがより輝き、光が翔の手の中から飛び出す。

 それと同時に模型店の中から、翔の作ったロボットが車形態で光に包まれ飛び出してきた。

――融合!―

ゼクサーが叫ぶと2つの光が1つになる!

辺りを赤い光が包んだ。

車の中心から前面が持ち上がり、天井だったところからつま先が現れ足を形成する。

リアのドアより後ろが左右に分かれ広がり、側面が開き折り畳まれていた腕が出てくる。

ボディー下部が上下に伸び、胴体になると同時にロボットの頭部が現れる。

 光が止むと、あっという間に赤い車は真紅のボディーを持つロボットに変形した。

『チェーンジッ!ゼクサーッ!!』





「う・・・宇宙警備連邦の勇者だとぉっ!?」

 空の上でエイジスが驚愕する。

「オルティアの野郎・・・フカシやがったな!」

 エイジスの言っていることは間違っていた。オルティアも地球にゼクサーがいることは知らなかったのである。

「こうなりゃルヴィア!まずあのクソ野朗からやっちまえ!」

 エイジスの声で、ルヴィアは目標を変更した。





 地面に着地したゼクサーは翔の方を見る。

「僕の模型が・・・本物のロボットになっちゃった・・・。」

 翔は唖然として彼を見上げた。

 他の3人はわけがわからなくなっていた。

「う・・・そ・・・。」

「なんと・・・。」

「翔君・・・?」

『私はゼクサー。少年よ。君の名は?』

 翔の模型と融合したゼクサーが翔に聞く。

「僕は、僕はツバサ!神崎 翔だよ!」

『了解した。ではツバサ、私に命令を!』

 その言葉に翔は面食らう。

「えっ!?命令?」

『うむ。私を目覚めさせたのは君だ。だから私は君の命令に従う義務がある。さ、命令してくれ!』

「何か命令っていうのはイヤだな・・・。お願いじゃダメ?」

『命令』という言葉に難色を示した翔がゼクサーに尋ねる。

『ああ。それでも構わない。何でも言ってくれ。』

「それじゃあ、あいつをやっつけて!」

 ルヴィアを指して翔が『お願い』をゼクサーに言った。

『了解!ツバサ!』

 そう叫ぶが早いか、ゼクサーはルヴィアに向かって猛然とダッシュをする。

『うおおおおぉぉっ!』

 そのままの勢いでゼクサーはルヴィアを拳で殴った。

ドカアアァッ!

 ゼクサーの拳をまともに受けてルヴィアが吹き飛ぶ。

『ツバサ!この体に武器はあるか?』

 ルヴィアを見据えたままゼクサーは翔に聞いた。

「ゼクサー!右足に銃が入ってるよ。それを使って!」

 翔が答える。

『了解!』

 右足側面が開き、中から一丁の銃が飛び出す。

『ゼクサーマグナムッ!』

 足から抜いた銃を立て続けに5発、ルヴィアに撃ちこむ。だが攻撃は先ほどの拳ほど効いてはいなかった。

『何っ!?』

立ち上がったルヴィアが反撃とばかりにライフルを連射する。

ドンドンドンドンッ!

『くっ!だがこれならかわせ――』

 回避をしようとするゼクサー。しかし彼は動くことが出来なかった。

(今避ければ、後ろにいるツバサ達に当たってしまう!)

ガンガンガンガン!

『ぐっ!?』

 そう判断したゼクサーは、ルヴィアの銃弾をその身で受け止めた。

(よし!耐えられた。ここから反撃――)

 ゼクサーの予想空しく、ルヴィアの攻撃は止むことが無かった。ライフルを連射しつつ、肩のハッチが開いて
無数のミサイルが放たれたのだ。

ドドドドドドドッ!!

『ぐああぁぁっ!』

 ルヴィアの波状攻撃にさすがのゼクサーも膝をつく。そこに止めとばかりにルヴィアが残りのミサイルを発射
した。

「あぁっ!ゼクサーっ!!」

 悲鳴を上げる翔。だがさらに悪夢は続く。故意か偶然か、ミサイルの1基がゼクサーをすり抜けて翔達のほうに襲いかかる。

『しまった、ツバサっ!』

慌てて戻るゼクサー。しかし距離が離れていたため間に合わない。もう直撃する!

 翔以外の3人が絶望する。

「これで終わりかのう・・・」

「もうだめぇ!」

「翔君っ!!」

「ゼクサアアァァッ!」

 翔が叫ぶ。

『ツバサアアァァァァッ!!』

――ゼクサーが叫んだ時、奇跡が起きた――






ガアアァァァンッ!!

――ミサイルが、爆発した――





「やった!直撃だぜぃ!」

 空の上でエイジスが喜ぶ。ルヴィアがゼクサーと戦闘しているのを見物していたら、ゼクサーが翔達を庇って
いることに気づいたのだ。そこでエイジスはミサイルの一基を『能力』で操作し、翔達にぶつけたのである。

「ザマ―ミロ腐れ勇者!ハーハハハハハっ!」
――その時、奇跡が起きた――




ゴオオォォォ・・・

――ミサイルの爆風が頬をなでる。しかし、それだけだった。

 予想していた熱波は来ない。硬く身構えていた4人がうっすらと目を開ける。

 そこにはゼクサーが爆炎をその身にまといこちらを向いて立っていた。

『ツバサ、大丈夫か?』

 体を包んでいた炎が消え、ゼクサーが声をかける。

「ゼクサー・・・?本当にゼクサーなの?」

 翔が疑問を口にするのも無理はない。なぜならゼクサーの姿は変わっていたのだ。

 全体的なシルエットは変わってはいない。赤いカラーも変わってはいない。

 だが胸のデザインが違っていた。翔は胸に星の意匠など作ってはいない。
 
 顔も変わっていた。翔は頭部に羽飾りに似たようなものを付けてはいない。

 あまつさえ額には翔が胸につけていたクリスタルが収まっていた。

「一体どうしちゃったのゼクサー!?」

『いや、私にも判らない・・・。気がついたらミサイルの目の前にいたんだ。』

 ゼクサーも何が起こったかわかっていないようだ。自分の姿が変わっていることにも気がついていない。

『だが1つだけ前と違う。体中に力がみなぎっているんだ。これなら・・・いける!』

 ゼクサーが拳を握り締めて翔に言った。

「!? ゼクサー!来るよっ!」

『むっ!』

 ゼクサーがふり向くと、ちょうどルヴィアがライフルを構えようとしていた。それに合わせゼクサーも銃を向ける。これも形が鳥を模した形に変わっていた。

『ドンッ!』
 
2体の銃声が重なる。銃を落としたのはルヴィアの方だった。ゼクサーの撃った弾は、ルヴィアのそれを弾き飛ばし右腕に命中させたのだ。

 間髪入れずに間合いを詰めるゼクサー。彼が銃を一振りすると、「く」の字型だった銃が真直ぐになり、伸びた銃口から刀身が現れる。それを見たルヴィアは背中からビーム・サーベルを取り出して構えた。

ガキイィンッ!!

 加速をつけた2体がすれ違う。ゴトン、という何かが落ちた音がした。

 ルヴィアの腕だ。ゼクサーがすれ違いざまに切断したのだ。

『はぁっ!』

 勢いをつけてふり向きゼクサーがルヴィアを蹴り飛ばす。背後からの一撃にルヴィアは数十メートルも吹き飛んだ。

「いまだよゼクサーッ!!」

 翔が叫ぶ。ゼクサーがそれに答える。

『おおっ!』

 ゼクサーが剣をかざして叫んだ。

『ゼクスラッシャーッ!!』

 刀身に燃え盛る炎が宿る。それを正眼に構えてゼクサーは地を滑走した。

 炎が刀身だけではなく全身を包み込む。最後には彼は炎の塊となった。

 ルヴィアは何とか立ち上がるも、回避は出来そうになかった。

『フレイムゥゥッ!フィニィィィッシュ!!』

 ルヴィアの胸を炎の閃光が貫いた。その先には構えたままのゼクサーがいた。

 炎は動かぬロボットの胸から膨れ上がり――

ドガアアァァァァンッ!!

 内部から爆発・四散した。

『ミッション・オーバー』

 ゼクサーが剣に付いたものを払うかのように一振りして、決めの台詞を口にした。





「畜生!ルヴィアが落とされただとぉっ!」

 エイジスが絶叫する。彼の『操機』が破壊されるのは初めての事だったのだ。拳を硬く握り締め、悔しさをこらえる。

「覚えてやがれ!次はこうはいかねえからな!」

 誰にともなく捨て台詞を残して、彼は虚空へと消えた。





「すごい!すごいやゼクサー!」

 ゼクサーを見上げて翔が喜ぶ。

 麗佳と纏が手を取り合って喜んでいるさなか、弦十郎は1人考え事をしていた。

「・・・・・・。」

(これがあやつの言っていた『勇者』というやつか・・・。さて、これからどうなるのかのぅ・・・。)





―――今、新たなる戦いの幕が開いた―――




次回予告へ

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                       あ と が き

 某ラストガーディアンの書き込みにて・・・。「頑張ってください」「期待してます」。
 
 この暖かいお言葉を受けて一番最初に思ったこと。

「も・・・もう逃げられねぇ(バカ)」

 と、いうわけで始まりました「勇者戦記 ゼクシード」。いかがでしたか?じつは自分、小説をちゃんと書くのはこれが初めてだったりします(おい!)。
 
 過去にファンタジー物なぞ書いたものの、投げ出しちゃったりデータ消えたりして(!)挫折してました。でも今回こそは!と気合を入れて書き上げ・・・何とか形にすることが出来ました。
 
 これも応援してくださった皆様のおかげです。多謝。
 
 にしても読み返してみるとつくづく自分の文才の無さに驚かされます。

 「こんなんで納得してもらえるのか?」という考えが頭の中でグ〜ルグ〜ルと渦巻いて、もうドキドキです(ネガティブモード全開)。

 何はともあれ、ご意見、ご感想などお待ちしております。
 
 あと、こんな作品でもいいから出たい!という奇特な方は簡単なプロフィールを書いて
 
 メールにてお送りください。アドレスは
                           dourin@yd5.so-net.ne.jp
 です。お待ちしております。

 第2話は学校のテスト&国家試験(!)の都合上遅れるとは思いますが、必ずアップさせるのでどうぞ見捨てないでやってください。

では。
                                    2001年9月 動輪